パリに行くきっかけは、ある日突然やってきた。東京でまだ大学生だった時に観に行った展示会で、モネの睡蓮に魅了されて以来、いつかフランスを訪れてみたいと思いながらも、特に具体的な案がある訳でもなく、年月を送るような日々が続いていた。
ただの観光ではなく、語学研修もできて、フランスのどこかで、人々の日々の暮らしや文化を体験することができたら、と漠然とした思いが、いつとはなしに、浮かんできては消えたりしていた。
そして、随分久しく会っていなかった友人からの連絡で、お茶をすることになったその日、会話の中で、彼女から紹介されたのが、ある大学の夏期語学研修プログラムのことだった。
最初私は、このプログラムの内容が、自分の考えているような方向に当てはまるものかどうか疑問だったのだが、資料を取り寄せてみると、何かピタッとくる感触があった。驚きながら手続きを進めるうちに、仕事も有給休暇を取ることで会社からの同意も得られ、気が付くと、パリに30日間滞在することに、全ては運んでいた。1995年の夏のことだった。
私にとって遠い先の話だと思っていたパリ行きは、こうしてある日、何の前触れもなく、事前準備もなく、呆気無い感じで実現することになった。何か信じられないような面持ちもしたけれど、物事が決まる時というのは、案外、こんな風に外側から呼びこまれるようにして、起こるものなのかもしれない。